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ACT1-(4)

橋の中央部に向かって歩いてきた満月に、2人の男女は気づくと視線を彼女に向けた。

「新参者はすっこんでな!」
「縄張り争いの第三勢力ですか?」
「……違う。色恋沙汰はよそでやってほしいだけ。」
「はぁ!?これの何処が色恋沙汰に見えるっての!?」
「そうですね。まったくもって心外です。」

「………………周りの人を巻き込んでまで、縄張り争いをする気?」
メラメラと燃える炎を感じながら、満月は2人に問いかけた。

「……………良いでしょう。」
「まずはアンタから、潰してやるよ!」

2人はそういうとそれぞれの巧断に、満月を攻撃するよう指示を出した。

水と炎が螺旋を描き、満月に襲い掛かる。
満月の巧断は炎を吐いて、螺旋状の水と炎を弾いた。

「…………!」
「へぇ、アンタの巧断も特級かい?ちっこいのによくやるもんだ!」
「少々見くびっていたようですね。」

男が炎の巧断に続いての攻撃を指示しようとした時、風が吹いた。

「………!?」

突如として発生した鎌鼬をかわした巧断は男と女の元に戻る。

「おおっと、今の攻撃をかわすとは手馴れているねぇ。」
「…………満月ちゃんだけに戦わせるわけにはいかないって言ったのは何処の誰だよ。」

風の鳥と、青い龍の巧断を連れた智久と芳樹が満月の前に立つ。

「………芳樹さん、智久さん。」
「満月ちゃん、1人で突っ走ったらダメだろ?」

芳樹は満月の柔らかい頬をむにゅー、とつまんだ。


「アンタ達………いったい何者だい!?」
「ここら辺では見かけない顔ですが…………。」
「何、通りすがりの者さ。ちょっと訳ありでこの街には来たばかりだけどな。」
はっはっは、と笑う智久に芳樹はため息をついた。

「頭!」
「リーダー!」
「「警察が!!」」

「……っち、いいところだってのに!」
「今日のところは貴方達に免じて、引き下がるとしましょうか。
皆の者、帰りますよ。」
「応!」

サイレンが鳴り響くなか、男女は各々の部下達を連れて引き下がって行った。

「俺達も下がろうぜ。事情聴取に拘束されるわけにもいかないからな。」
「そうだな。……出てきてくれてありがとう、助かったよ。」

芳樹と智久は巧断に労いの言葉をかけた。


続く。

ACT1-(3)

天気もいいということで、空汰からお小遣いをもらった芳樹達は
下宿先から外に出ることにした。

「………何で満月ちゃんに渡したんだろうなぁ。」
「そりゃ、この3人の中でしっかりしているの満月ちゃんだからじゃね?」
「智久!」

和気藹々と話をしながら、3人は街を歩いた。

「………ね、ちょっとあの2人イケメンじゃない?」
「あの子、可愛い!お人形さんみたい!」

道行く人に声をかけられ、芳樹達はまんざらでもない気分になった。

「俺達、異世界から来たんですぅって言ったら驚くだろうなあ。」
「でも今回は守り刀を連れてきていないから、自分の身は自分で守らないとな。
………あ、満月ちゃんは俺が守るけど。」
「はい。」

「………お、お好み焼き屋さんがあるぜ。あそこに入ろうか。」

看板を目にした智久が2人に声をかける。


「満月ちゃん、お昼はお好み焼きでもいいかい?」
「はい、お腹が満腹になれればそれで良いです。」

「………満月ちゃん、そこはもうちょっと可愛く言った方がいいぜ。
きゃー、芳樹さん素敵ですぅとか。」

「…………芳樹さんはいつも素敵ですけど?
…………あ、でもお酒が入ると人が変わるのはちょっと嫌かな。」

満月の言葉にグサッときた芳樹はよろよろと倒れそうになる。

「満月ちゃん、酷いよ…………。」
「え?今ので傷つきました?」
「…………満月ちゃん、ひょっとしてドS?」

3人がお好み焼き屋に入ろうとした時、怒声が聞こえた。

「………まったく、またかよ!」
「縄張り争いもいい加減にしやがれ!」
「特級の巧断持っているからって威張んじゃねぇよ!!」
「……何だ?」
「巧断を使った縄張り争いか?」
「………こんな真昼間から?」
橋の左右を見ると、炎の巧断を使役する男と水の巧断を使役する女が欄干の上に立っていた。
「今日こそ決着をつけてやるわよ!」
「ええ、そうしましょうか。いい加減、このやり取りにも飽きてきましたし。」
「………喧嘩か?」
「逃げろ、特級の巧断同士の争いに巻き込まれるぞ!」
「………特級?」
「巧断には階級があるのか?」
「……………………。」
2人の男女が対峙しているなか、満月は心臓がバクバクするのを感じた。
「…………満月ちゃん?」
「……………………あの、止めてきます。」
「「…………は?」」

2人がぽかんとしていると、満月の周囲に紅い炎が発生した。

ツノを持ったオオカミのような獅子のような巧断が現れる。


「………貴方だったのね、私に声をかけたのは。」
満月の言葉に炎の巧断はクゥン、と鳴いた。


「………あの2人を止めに行こう。」


続く。

ACT1-(2)

布団を片付けた満月は芳樹と智久と共に正座をして、
空汰の話を聞くことにした。

「ここ阪神共和国には巧断っていう八百万の神様みたいなもんが存在していて、
異世界から来た人間であろうと、憑くもんは憑くんや。」
「なるほどな、俺達がここに来る祭に現れた光も巧断というわけか。」
「………ああ、そういえば私の場合は赤い光でした。」
「俺は青い光だったけど。」
「緑の光だったぜ、俺は。」
「そやな。とりあえず3人共、巧断が憑いているのは確かや。
もちろんわいにも憑いている。
…………ただ、その巧断についてなんやけど…………。」
「最近、巧断が人から離れると言う事件が発生しています。
離れる、というよりは消失した、と言えばいいのでしょうか。」
「……………侑子さんが言っていた八百万の神とも
言われる巧断の力を悪用する何かって奴の仕業か。」
「そうなりますね。」
「ただ、出たり消えたりするもんやから、ワイらでも簡単には見つけることができん。」
「………となると私の魔眼が頼りになるってことですかね………。」
「視えないものを視ることができる満月ちゃんの魔眼をうまく使えればいいんだけど…………。」
「………巧断は目に見えるものですし、普通に触ることもできます。幽霊ではありません。」
「まあ、そうですよね…………。」
「力の強い巧断が消えたという話は今んところ入っていないんや。
ただ、いつなんどき消えるかはワイらにもわからん。」
「…………だから、夏休みの間に解決しろってことなのか。」

「………ですね。」
「事件を解決するまではここを拠点にするとええ。」

「ありがとうございます、空汰さん。」
「ワイのハニーに惚れるなよ?」
「惚れないから。」
「惚れません。」
「…………芳樹さんは私の婚約者ですから。」



続く。

ACT1-(1)


世界と世界を結ぶ通路の中を突き進んでいくなかで満月は赤い光を見た。
『…………我は炎を司る者の主。汝に呼ばれ、ここに導かれた。』
「……私が呼んだ?」
『力が欲しいか。』
「………うん。欲しい。」
『ならば、我を必要とする時は我を呼べ。我は必ず汝の元に来る。』
「………ありがとう。」




「………ちゃん。」
「……………。」
「………月ちゃん。」
「……………。」
「…………満月ちゃん。」
「はい、起きます!」


芳樹の声で満月は体を起こした。
上半身を動かすと、自分はどうやら布団に寝かされていたらしい。

「お、目が覚めたか。これで全員起きたな。」
「はい。」

「……ああ、ワイは有川空汰。
こっちはマイハニーの。」
「有洙川嵐です。」
「初めまして、姫宮満月と申します。
不束者ですが、よろしくお願いします。」


「俺は綿貫芳樹です。」
「青桐智久だ、よろしく頼む。」
「侑子さんには世話になっているさかい、ワイらもきっちり面倒みたるで。」
「ありがとうございます。」
「………で、単刀直入に聞くが今この世界で何が起こっているんだ?」
「ああ、そうやな。早速やけど、本題に入ろうか。」



続く。

プロローグ





…………この世に偶然はない。あるのは必然だけ。


その日、芳樹、満月、智久の3人は桜庭市から移動して、都内某所にある次元の魔女の店にいた。
「………かの高名な次元の魔女から仕事を依頼されるとは身に余る光栄だな。」
「引き受けてくれたからこそ、ここにいるんでしょう?貴方達は。」
「………まぁ、対価を支払う代わりに何でも願いを叶える店ですからね、ここは。」
「…………………対価は必要よ。無償の奇跡なんて、この世には存在しないもの。」
「確かにそれは一理あるな。有償の奇跡はよく聞くが。」
「…………それで、侑子さんの依頼は。」

「……貴方達3人には夏休みの間、行ってもらいたい世界があるの。
巧断がいる世界、阪神共和国に。」

「………目的は。」
「……………八百万の神とも呼ばれる巧断の力を悪用する何かを発見して、排除すること。
それが貴方達に依頼する仕事。」
「…………ま俺達でなければ、できない仕事だな。
対価はそうだな、ここで宴会でもやるか。」
「そういうの、嫌いじゃないわ。」
「俺達の関係性を不変不滅のモノにするのは難しいからな。
それこそ因果律を変えなければならないほどに。」
「………ええ、そうね。」
「上等な酒と肴は用意してやるよ、満月ちゃんの舞は素晴らしいからな。」
「………私が踊るんですか…………。」
「いいわねぇ、貴方達が帰ってきてからの楽しみにするわ。」


ニコニコと笑う侑子に満月はため息をついた。

「………じゃあ、準備は良いかしら。」
「もちろん。いつでも行けるぜ。な、芳樹。」

「ああ。満月ちゃんは大丈夫?」
「はい。私は大丈夫です。」

3人の足元に魔法陣が広がる。魔法陣から溢れた光が3人を包み、跡形もなく消え去った。






続く。
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