「…………はぁ、言っちゃったよ………何しているんだ、私は…………。」
マンションに帰る途中、喫茶店に寄ったリオンは本日のケーキセットを頼みながら
物凄く後悔をしていた。
「(せっかく、シャチのDNAを打ち込んだ張本人達と出会えたっていうのに
ああいう態度を取るなんて最ッ低………。
でも今更、前言撤回しますなんて言えないし…………。)」
うむむむ………と悩むリオンに店員は、お待たせしましたー、と言ってケーキセットを置いた。
『それでは次のニュースです。
外国が哺乳類捕食型のシャチを絶滅危惧種に指定した件について…………。』
「…………………。」
店内に置かれているテレビの画面に映るアナウンサーが読み上げたニュースにリオンは
耳を傾けた。
「………ウソ、シャチ、絶滅危惧種に指定されたんだ…………。」
「………あのー、櫻井リオン選手ですよね?」
突然、声をかけられてリオンはえ、と顔をテレビからそらした。
「………あの、私、ファンなんです。サイン貰ってもいいですか?」
「………え、あ、どうも。私のサインでよければ。」
やった、と喜ぶ女子高生にリオンはあはは、と笑った。
色紙にサインを書き、それを渡すと女子高生はありがとうございます、と言って
自分の席に戻って行った。
「………………………まあ、深く考えても仕方がないよね。
私、シャチの生態について知っているようで知らないし。
……………長い付き合いになりそう。」
そう言うとリオンはぬるい紅茶を飲んだ。
続く。
打ち上げが終わり、芳樹と満月は和泉守と堀川に回収された。
自動車の後部座席に乗った芳樹はふぅ、とため息をつく。
「………でも単騎出陣なんて、刀ミュもそれだけ認知度があがってきたってことだよね。」
「そうですねぇ。多人数でやってきたから緊張なんてしなかったんですけど、
単騎でやるとなると、緊張してきますね。」
「あはは、満月ちゃんなら大丈夫だよ。小さい頃から芸能界に入り浸っているんだし。」
「……………そうですか?」
「それを言うなら、若旦那様だって同じだろ。嫉妬や欲望渦巻く芸能界を生きてきたんだしな。」
「人間の負の感情ほど恐ろしいものはありませんからね。」
物吉の言葉に芳樹はうん、と頷いた。
「綾人お兄様、姫宮家の仕事を放って単騎出陣を見に来そうですね。」
「それはありえるかもね。智仁も姉さんも公務をすっぽかして、見に来そうだし。」
「いやぁ、さすがに毎日は無理ですよ。お2人は。周りが五月蠅いですから。」
「……………まぁ、確かに。
智仁も普通の家出身だったら、良かったのにね。」
「……皇室と言う家柄に生まれた以上、仕方のないことかと。」
「…………まあ、それは姉さんも承知の上だろうね。」
「……………ですね。」
しんみりとした空気が車内に漂う。
「…………しんみりとした空気になっているな、こりゃ。」
「………突っ込んだら負けだよ、兼さん。」
助手席に乗っている堀川の言葉に和泉守はそうだな、と呟いた。
「……………あ、そういえばお嬢様。之定が良い反物を入手したって言っていたぜ。」
「ホントに?」
「歌仙が良い反物っていうなら、相当いいだろうね。」
「ま、之定の目利きは確かだからな。」
「同じ兼定なのにえらい違いだもんね、兼さん。」
「国広、それは余計だ!」
「和泉守、ちゃんと前を見て運転してくれよ。」
「大丈夫、和泉守の運転は安全ですから。」
続く。