ジャルダン・デ・ブルー・ロジエ

「……………えっと、えぇえっと………。」
「ごめんね、この２人がゴーイングマイウェイで。
吃驚したでしょ？」
「あ、いえ、その、何ていうか………お話できるだけでも嬉しいので………はい………。」

少女の名前は岩永咲耶といい、現在１６歳の彼女は現在休学生活を送っていた。

「満月ちゃんのファンなんだ。」
「は、はい。厚樫山異聞と幕末天狼傳を観に行きました。
凄いカッコよくて…………。」
「ありがとう、凄く嬉しいよ。」
満月の見せた笑顔に咲耶はホッとした。

「咲耶ちゃん、どうして休学に？」
「………あの、何ていうか…………精神疾患を持っているので………。」
「そっか。……咲耶ちゃん、自分の病気と戦っているんだ。」
「………はい。周りからは何で学校に行かないの？とか、体何処も悪くないのに休んでどうするの？とか
言われているんですけど…………その、何ていうか。
心が落ち着かなくて…………。」
「精神疾患は体じゃなくて心の病気ですからね。
どうしても、理解されにくいですよね。」
「……そうなんです。ただ、お父さんもお母さんも私のペースで良いからって言ってくれて。
フリースクールもあるし、そっちに行っても大丈夫だって。
お父さんは精神科医で、お母さん、看護師なので………。」
「そっか。じゃあ、心強い味方だね。」
「は、はい…………。
…………………それに２つ年上の幼馴染も、力になってくれるって言うか。」
「そうなんだ。」
「勉強とかも見てくれますし、私のお父さんを尊敬しているから、応援したくて……。
でも私、何も返せてなくて…………。
ど、どうしたら、いいのかなって今日も悩んで気分転換に外に出たら…………。
３人に声をかけられた次第で…………。」

「あ、そうなんだ。じゃあ、完全に外に出ないわけではないんだ。」
「は、はい。満月ちゃんのCDを買いに行ったりとかはしています。
…………その、何ていうか。完全な引きこもりになってしまったら、人生終わりかな……と。
さすがに精神科のデイケアとかはまだ使えないんですけど………。
私より年上の人とかがいるし、興味本位で色々聞いてくる方もいるってお父さんが言っていたので………。」
「…………まあ、１０代で精神科のお世話になるってなかなか難しいところもあったりするからね。」

「…………はい。」

「……あ、そうだ。咲耶ちゃん、この後予定がないなら私達と一緒にウィンドウショッピングとかしない？」

「それはいいですね。いつもの気分転換がもっと楽しくなりますよ！」
「そうだね。でもまずはそのサングラスとマスクを外さないと。」
「え、えぇえ！？こ、怖いんですけど…………。」
「大丈夫だよ、怖くないよ。外に出るだけでも相当勇気のいることだよ？」
「もう少し、勇気をもって。」
「そうですね。この際だから、ファッションも取り入れちゃいましょうか。」

「え、え、ええええええええ？！」



続く。

暗闇の中、少女はパソコンの画面に釘付けになっていた。
画面には紅い髪の少女が歌を歌うと、歓声があがり、盛り上がる会場が映し出されていた。
「……………カッコいい………。」
少女はポツリ、とそういうと画面を閉じた。


「…………はい、お疲れ様でした！」
「お疲れ様でーす！」

本日、満月と芳樹は桜庭市営文化ホールで来週行われるコンサートの練習をしていた。
満月がピアノを弾き、芳樹がバイオリンを演奏するというコンサートは
瞬く間に前売り券が即完売するという事態になった。
「…………はぁ、来週まで後１週間ですか。早いですね。」
「そうだね。」
「お疲れ様です、若旦那様、お嬢様。」
物吉が差し入れのドリンクを持ってきたので２人はそれを口にした。
「あー、美味しい。物吉特製のドリンクが身に染みる………。」
「ちょうどのどが渇いていたから、助かったよ。」
「いえいえ、どういたしまして。」
後片づけを済ませ、桜庭市営文化ホールを後にした３人はテクテクと歩く。
「テレビ局での生中継も入るそうですから、凄いですよね。」
「…………フツー、入るかなァ…………。」
「当日券を入手できなかった人がいた場合に備えて、生中継をするって話だからね。
機材トラブルとかが起きなければいいけど。」
「そうですねぇ…………。」

「………………？」

「物吉、どうかしたの？」

歩道を歩き、商店街に向かおうとした芳樹と満月は足を止めた物吉に声をかけた。
そこには
キャスケットにサングラス、マスクをつけた１人の少女が立っていた。

「あ、いえ。あそこに人がいるので。ちょっと気になりまして。」
「人？」
「今日って平日だったよね？」

「………何か不審者じみた格好してますけど…………。」
「…………満月ちゃん、それはちょっと失礼なんじゃないかなぁ？」
「…………声、かけてみます？」
「…………そうしようか。もしもし、そこの人！」

「…………え、わた、私ですか！？」

急に声をかけられて少女はあたふたとなった。

「そうそう、君。」
「良かったらお話しませんかー？」
「えっと、えええっと…………ど、どうしよう…………！！」



続く。