ひらり、と尸魂界の遣いである蝶が舞う。
「………ねぇ、聞いた。203号室の小鳥遊さん、もう駄目かもしれないって。」
「……最期を看取ってくれるご家族がいないのは辛いわねぇ。」
空座総合病院に到着した咲良は受付を通り過ぎると、203号室へと向かった。
生命維持装置に繋がれた母親を見て、咲良は悲しそうな顔をした。
「………お母さん、お待たせ。」
「………………咲良、なのかい?」
「うん。遅くなってごめんね。色々手続きしていたらこんな時間になっちゃった。」
「………あ、あぁ……会いたかったよ、咲良………。」
「うん、私も会いたかった。」
「お前を殺した犯人が病死したって聞いてね………復讐しようかと思ったけど、無理だったんだ………。
ごめんねぇ………。」
「大丈夫。全部終わったから。お母さんが復讐する必要なんてないんだよ。」
「……………そうかい、そうかい……………。娘に迎えに来てもらえるなんて、私は何て幸せ者なんだろうねぇ……。」
「……………………お母さん、私ね。死神として働いているの。
だから上司に相談して、お母さんと一緒にあの世で暮らせるようお願いしたんだ。
これからはずーっと一緒だよ。」
「………そうかい、そうかい…………。私はホント幸せ者だ…………。」
「……………うん。じゃあ、お母さん、行こうか。」
「……ああ、そうさねぇ………。」
恭子の肉体から魂が剥がれ、咲良は彼女を連れ、尸魂界へと向かった。
「………小鳥遊さん、検温の時間ですよ……………小鳥遊さん?」
「せ、先生、小鳥遊さんが!!」
続く。
義魂丸を使い、現世の人間にも見えるようにした咲良はスクランブル交差点の近くにある公園に移動した。
「………で、何で君までついてくるのかな?」
ちょこちょこと後ろについてきた花蓮に咲良はため息をついた。
「だってお礼言いたいんだもん。助けてくれてありがとうって言ってなかったし。」
「……………ホントに娘を助けてくれたみたいで、ありがとうございます。」
「娘さん、霊感を持っているんですか?」
「えぇ、事故に遭った影響なのかどうも視えるみたいで。」
「(あの時の事故の影響か…………。うーん私も生前視える方だったしなぁ………。
伝染しちゃったのか?)」
「………お姉ちゃん、どうしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ。………事故って?」
「高齢者が車を暴走させて、散歩中だったこの子の方に突っ込んできたんです。
帰宅途中の女の子がこの子を突き飛ばしてくれたおかげで、軽傷で済んだんですけど、
その子は即死だったみたいで………。確か小鳥遊咲良さんだったかしら。」
「あ……ちなみに小鳥遊さんちのご家族ってどうなりました?」
「……娘さんを亡くしたショックでお母様が病院に入院したとかで。
旦那さんと死に別れた上に、娘さんまで先に逝かれたから………。」
「………ちなみに何処の病院に入院しているか、わかりますか?」
「空座総合病院だったかしら。」
「ありがとうございます。」
「…………いえ、これ以上のことはわからないからごめんなさいね。」
「あ、いえ。十分です。じゃあ、私はこれで帰りますね。」
「バイバーイ、お姉ちゃん!」
花蓮と別れた咲良はすぐに尸魂界に連絡を取った。
「………あ、すみません。小鳥遊です。実は聞きたいことがあって……………。」
続く。
「アアア!!」
「………第八の舞、獅子宮!!」
火炎に包まれた獅子が虚に襲い掛かる。全身に火傷を負い、虚は咲良を睨みつける。
「キシャァァァァア!!」
「第四の舞、巨蟹宮!」
円形状の結界が張られ、咲良は虚の攻撃を防いだ。
「…………………このままだと押し切られるな…………。」
「お姉ちゃん…………頑張って!!」
「……………………大丈夫、こいつにだけは絶対に負けられない…………!!」
「第一の舞、白羊宮!」
高速移動をした咲良は虚の真上に動くと、そのまま落下していく。
「第二の舞、金牛宮!!」
物凄い力が虚を抑え、地面に穴を開けた。
「ぐ、ぐぅ……………!!」
「………これでおしまい。第十一の舞、宝瓶宮。」
刀を振り下ろすと、大量の水が溢れだし、虚を包み込むとあっという間に凍らせていった。
「…………えい!」
凍った虚を真っ二つに斬ると、虚は砂のように消えていった。
「………お姉ちゃん、凄い!!」
パタパタと駆けよってきた花蓮に抱き着かれ、咲良はあらまぁ、と言った。
「……………………ありがとう。声援をしてくれて。おかげで勝てたよ。」
「えへへ。」
続く。
尸魂界から現世に繋がる門を通り、咲良は空座町に到着した。
事前収集した情報によると自身を轢き殺した犯人は獄中で病死したらしく、
その際、迎えに来た死神を半殺しの状態にしたのだそうだ。
「………………………………まぁ、何にせよ斬り捨てるだけだよね。」
咲良はそう言うと、自身が轢き殺された事故現場に向かった。
「……………あの子、大丈夫かな。」
事故現場に向かうと、交差点の脇にある歩道にはたくさんの花束とお菓子が供えられていた。
母親に連れられた小学生ぐらいの女児が、花束を置き、手を合わせる。
「………あの子…………。」
「……………花蓮、ちゃんとお礼を言わなきゃね。」
「うん。………助けてくれてありがとう、お姉ちゃん。花蓮、小学生になったんだよ。
お姉ちゃんにも見てもらいたかったな。」
とその時、霊圧が乱れ、咲良は斬魄刀に手をかけた。
「ア…………アア!!」
スクランブル交差点に虚が現れ、虚は花蓮に目をつけた。
「ママ、怪獣がいるよ?」
「………怪獣?何処にいるの?」
「………ママ、見えないの!?」
「……あの子、見えるのか………!!」
言うが早いか、咲良はスクランブル交差点へと駆け抜けた。
「…………舞え、百花繚乱!!」
始解した咲良は、斬魄刀の刃を虚に向け振り下ろした。
「……………死神………来たのか…………!!」
「……………お姉ちゃん、誰……………?」
「……………お母さんと一緒に安全なところへ。大丈夫、すぐに終わるから。」
そういうと咲良は刀を構えた。
続く。
「……悪いな、小鳥遊。急な話になってしまって。」
「謝らないでください、日番谷隊長。別に隊長が悪いわけじゃないんですから。」
十番隊の隊舎に戻り、荷造りをする咲良に日番谷は申し訳なさそうな顔をした。
「…………まぁ、京楽隊長の言いたいこともわかります。総隊長と一番隊の隊長の兼任は
仕事量が多いですから。
元柳斎先生がご健在なら、ありえないことですよ。」
「……………そうだな。」
十番隊の隊舎を後にし、咲良は荷物を持って一番隊の隊舎に向かった。
「………おい、見ろよ。新入りのくせに第三席だって?」
「…………よせよって、聞こえるだろ。」
「いいじゃないか、鬼道はからきしダメなのに斬魄刀が汎用性に優れているからって。」
「…………。」
死神達の陰口を無視しながら、咲良は隊舎の中に入る。
「…………あら、小鳥遊さん。いらっしゃい。待っていましたよ。」
一番隊の死神に出迎えられて、咲良はホッとした。
「京楽隊長から話は聞いていますよ。突然の異動で吃驚したでしょう?」
「ええ、まぁ。」
「……………それで、ついて早々申し訳ないんだけど貴女に任務があります。」
「………え?」
「空座町で虚が出現したというそうなの。他の死神に任せるべき案件なんだけど、
貴女じゃないとダメだって京楽隊長が。」
「………どういうことですか。」
「………その虚、貴女を轢き殺した犯人らしいわ。」
「……………!」
続く。