「これはまた随分と熱烈なラブレターだな。」
芳樹宛に届いた脅迫状を見て、三日月宗近はふっと笑った。
「お嬢様を自分のものにしたいからと言って、若旦那様を殺すと言うのは筋違いだな。
守り刀という厳重なボディーガードがいるというのに、馬鹿な奴よ。」
「ごもっともでございます、三日月殿。」
「…………して、警察は物的証拠がなければ動かない無能だからな。
どうする?一期一振。」
「無論、我々粟田口が調べたうえで徹底的に潰します。
ミツバチが種を運ぶ前に、排除しなければ。悪影響を及ぼしますからな。」
「まいた種はすぐに排除する、か。お前達らしいな。」
「いえ、新選組に比べたらまだ生易しい方ですぞ。」
はっはっは、と互いに笑い合う三日月と一期に、そばについていた信濃藤四郎は
うげぇ、と言う顔をした。
三条の方でも調べてみる、と言うことで三日月と別れた一期は信濃と共に
長い廊下を歩いた。
「………いち姉ぇ、若旦那様には報告しなくていいの?」
「いちいちこの手の手紙を報告する必要はない。
正々堂々とした相手ならともかく、ね。」
「………………何やかんやで若旦那様に甘いよね、いち姉ぇ。」
「そうかな。何しろ、小さい頃から見ているからね。」
「……………そっか。」
「とりあえず物吉殿にも連絡をして、しばらく様子を見よう。
守り刀の数を増やして、徹底的にガードしなければ。」
「………いち姉ぇってお嬢様のことになると、目つきが変わるね。」
「当然さ。若旦那様から、あらゆる障害から守り通せと仰せつかっているから。」
「生まれた時から見守っているから娘のような感覚だもんね、お嬢様。」
「ああ、そうさ。結婚したり、子供を産んだことはないけれど。
娘のように大事に思っているからこそ、守らなければ。」
続く。
ミーティングが終わり、一期一振は自室に戻るとアルバムを開いた。
満月の成長を綴ったアルバムで、1日に最低でも10枚ぐらいは写真を撮っていた。
「………すっかり成長しましたな、お嬢様も。」
満月は高等部に進学してからは姫宮の家を離れ、綿貫の別邸に住んで通学している。
母親であるジャンヌが命がけの出産をしたこともあり、満月は両親や兄達に溺愛されていた。
『いちごはどうしてわたしをまもってくれるの?』
『若旦那様より貴女様を守るよう、頼まれましたからな。』
『……そうなんだ。わたし、あいされているんだね。』
『はい。』
脳裏に幼少期の満月がふと口にした言葉が蘇る。
「…………生涯唯一の太刀として打たれた一期一振の名にかけて、
あらゆる障害からお守りするのが私の役割ですからな。」
生まれてきた時からずっと見守ってきたため、一期にとって満月は娘みたいなものだ。
だからこそ、あらゆる障害から守りとおさなければならない。
高等部を卒業したら、待っているのは芳樹との祝言だ。
「…………まずは、お嬢様に未だ言い寄る虫を排除せねばなりませんな。」
「いち姉ぇ、ちょっといいか?」
「どうしたんだ、薬研。」
粟田口の中でも大人びている薬研が、コンコンとノックをして一期の部屋に入ってきた。
「………いち姉ぇ宛に手紙が届いたんだ。」
「私に?」
「………どうもきな臭いんだがなぁ。」
薬研から手紙を受け取った一期は中身を開封した。
「………これはこれは。随分と熱烈な。」
「何て書いてあるんだ?」
「お嬢様を自分のものにしたいから、若旦那様を殺すと書いてあるよ。」
「…………これはまた、過激だな。」
「そうだね。…………三日月殿にも話しておこうか。」
「ああ、その方がいいな。こういった輩はなかなか減らないな。」
「……………それでも誘拐にならない分、まだマシかもしれないが。」
「インフルエンザにかかったお嬢様を連れて、守り刀もなしに飛び出した若旦那様を思い出すな。
あの時はいち姉ぇも本気で怒っていたな。
………まあ、智久様がいてくれたから良かったけど。」
「そうだな。」
続く。