電車を乗り継ぎ、七海は家賃3万円のアパートに帰宅した。
そろそろ一軒家を買うのもいいかもなぁ……と思いながら、自分の部屋の前に行くと。

「………あ、ご主人様だ!」

ワンピースを着た少女が座り込んでいた。


「……………………波音?」

ポロっと、つい仲の良かったシャチの名前が出る。
初対面のはずなのに、既視感があるのは何故だろう。

ずっと前から知っているようなこの感覚は一体?

「………わぁ、さすがご主人様!私のこと、わかったんですか!?」
「………えっと、ホントに波音?シャチの?」

「はい、シャチの波音です!ご主人様に恩を返すべく、やってきました!」

「………ちょい待て、急展開過ぎるでしょう。何でシャチが人間になっているの?」
「ええっと、話が長くなるので中に入ってから話しませんか?
私、ずーっと待っていたんです。」
「………それは悪いことしちゃったな…………。」

話が見えないため、七海はとりあえず波音と名乗る少女を部屋の中に入れることにした。





「……………えっと、つまり?めいどの世界からやってきて、恩返しをしないといけないの?」
「はい。
私、とっても心配していたんですよ。ご主人様が海、トラウマになっていないか。」
「………うーん、未だに海の中で動くこと自体ができないのがトラウマになっているんだけどな。
水族館はセーフなんだけど。」

「それはほら、室内にあるっていうのと何があっても人が
すぐ動いてくれるからっていう安心感があるからですよ。」

「………そっか。そうなるんだね。」
「はい。……でもよかった、さすがはご主人様。私のことをすぐに信じてくれて。」
「いや、これでも結構驚いているんだけど。恩返しって言われても、波音は私を助けてくれたじゃない。
そのおかげで死に別れたけど。」
「それは確かにそうなんですけどぉ…………でも私、早くご主人様に会いたかったんですよ。
だけど、修行やら手続きやらで色々とすぐに行けれなくて。」
「………はぁ。で、具体的にはどうするつもりなの?」
「そうですね、ご主人様のお手伝いをすればいいかなぁと。」
「………お手伝いか。じゃあ、獣医の手伝いをしてもらおうかな。
水族館で飼育員兼獣医としてやっているんだけど、助手が欲しいのよ。
でも、阿吽の呼吸があった人じゃないと嫌でさ。」
「それならお任せください!守護天使の名にかけて、お手伝いします!」
「………ありがと、波音。」



続く。