姫桜水族館。

市内にある最大級の公共施設でリーズナブルな値段から、市民達から愛されている老舗の観光スポットである。


「……………よし、これで大丈夫。」
飼育員兼獣医として働いている七海はペンギンの定期健診をしていた。

「ノドに骨が刺さっていたみたい。でももう取れたから。」

「ありがと、七海。いやあ、助かるわ。獣医の資格を持っている子が飼育員として働いてくれるのは。」

「あはは…………過去のトラウマが残っていますからねぇ。」
「………そういえば、波音ちゃんだっけ。」
「………はい。」
「野生のシャチと仲良くなって、一緒に波に乗ったりしていたもんね。」

「……サメの集団に襲われた時はもうダメかと思いましたよ。
でも、波音が身を挺してくれなかったら私はこうして生還することができなかったし。」
「……………海の底に沈んだんだってね、波音ちゃん。」
「………ええ。私が救出されたのを確認してホッとしたんでしょうね。」
「サーファーとして活動できないのはまだ踏ん切りがつかない証?」

「…………そうですね。波音を失った悲しみがまだ残っているかもしれないです。」

「でもこうして水族館に勤務しているのはある程度、トラウマを克服したってことよね。」
「まあ、海に入れる分には問題ないんですけど。そっから先がまだ動けないですね。」

「無理は禁物よ。焦らずゆっくり行きましょう。」
「………はい。」



続く。