天気もいいということで、空汰からお小遣いをもらった芳樹達は
下宿先から外に出ることにした。

「………何で満月ちゃんに渡したんだろうなぁ。」
「そりゃ、この3人の中でしっかりしているの満月ちゃんだからじゃね?」
「智久!」

和気藹々と話をしながら、3人は街を歩いた。

「………ね、ちょっとあの2人イケメンじゃない?」
「あの子、可愛い!お人形さんみたい!」

道行く人に声をかけられ、芳樹達はまんざらでもない気分になった。

「俺達、異世界から来たんですぅって言ったら驚くだろうなあ。」
「でも今回は守り刀を連れてきていないから、自分の身は自分で守らないとな。
………あ、満月ちゃんは俺が守るけど。」
「はい。」

「………お、お好み焼き屋さんがあるぜ。あそこに入ろうか。」

看板を目にした智久が2人に声をかける。


「満月ちゃん、お昼はお好み焼きでもいいかい?」
「はい、お腹が満腹になれればそれで良いです。」

「………満月ちゃん、そこはもうちょっと可愛く言った方がいいぜ。
きゃー、芳樹さん素敵ですぅとか。」

「…………芳樹さんはいつも素敵ですけど?
…………あ、でもお酒が入ると人が変わるのはちょっと嫌かな。」

満月の言葉にグサッときた芳樹はよろよろと倒れそうになる。

「満月ちゃん、酷いよ…………。」
「え?今ので傷つきました?」
「…………満月ちゃん、ひょっとしてドS?」

3人がお好み焼き屋に入ろうとした時、怒声が聞こえた。

「………まったく、またかよ!」
「縄張り争いもいい加減にしやがれ!」
「特級の巧断持っているからって威張んじゃねぇよ!!」
「……何だ?」
「巧断を使った縄張り争いか?」
「………こんな真昼間から?」
橋の左右を見ると、炎の巧断を使役する男と水の巧断を使役する女が欄干の上に立っていた。
「今日こそ決着をつけてやるわよ!」
「ええ、そうしましょうか。いい加減、このやり取りにも飽きてきましたし。」
「………喧嘩か?」
「逃げろ、特級の巧断同士の争いに巻き込まれるぞ!」
「………特級?」
「巧断には階級があるのか?」
「……………………。」
2人の男女が対峙しているなか、満月は心臓がバクバクするのを感じた。
「…………満月ちゃん?」
「……………………あの、止めてきます。」
「「…………は?」」

2人がぽかんとしていると、満月の周囲に紅い炎が発生した。

ツノを持ったオオカミのような獅子のような巧断が現れる。


「………貴方だったのね、私に声をかけたのは。」
満月の言葉に炎の巧断はクゥン、と鳴いた。


「………あの2人を止めに行こう。」


続く。