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ACT17-(6)

「………え、嘘、綾音ちゃん………良くなってきていない?」
「ホント!?」
「信じられない………これだと退院できるかも…………!」

夢から目を覚ました後、定期検査をしていた綾音は数値が良くなっていることを驚かれた。

「おじいちゃんが良くなるって言っていたの、このことだったんだ…………!!」

その様子を芳樹と満月はひょい、と小児科病棟の病室の端から覗いていた。


「やっぱり闇呪が綾音ちゃんの体も蝕んでいたみたいですね。」
「そうだね。おじいさんが代わりに請け負っていたかもしれないね。」
「孫思いの良いお爺様なんですね。」
「でもこれで闇呪も消えさったことだし大丈夫だと思うんだけど。」
「はい。…………でも人間の夢に侵食できるとなると厄介ですね。
綾音ちゃんみたいな子供だったらまだガードが緩いですから、入ることができたんですけど………。」
「そうだね。大人とかだと、結構ガードが堅いから。」
「現実世界に引きずりだして、どうにかするしかないね。」
「…………はい。」


「…………あ、芳樹お兄ちゃん、満月お姉ちゃん!」

2人の姿に気づいた綾音は2人に駆け寄った。

「この調子だと退院できるって、おばあちゃんの誕生日を一緒にお祝いできるよ!」
「それは良かったわね、綾音ちゃん。」
「うん!ありがとう、芳樹お兄ちゃん、満月お姉ちゃん!」






続く。

ACT17-(5)

人間大のサイズになった闇呪は芳樹に襲い掛かる。
芳樹は庭師の鋏を駆使し、闇呪の腕を斬り裂いた。

「み、満月お姉ちゃん……あれっていったい何なの?」
「理解したらダメ。私達とは相互理解できない生き物なの。
よくわからないけど、とりあえず怖いものなのよ。」
「…………え?どういうこと?」

「クトゥルフ神話って知っている?数ある神話の中で、作者が判明している神話なの。
あれもまた良くわからないけどとりあえず怖いモノが出てくる話が多くて。
とりあえず理解したらダメなのよ。」
「理解しちゃったらどうなるの?」
「精神がおかしくなっちゃうわ。だから、理解したらダメなの。」

満月はそういうと魔法陣を展開させた。
植物が生み出され、闇呪を拘束する。

「満月ちゃん、ナイス!」

そういうと芳樹は地面を勢いよく蹴って闇呪を一撃で斬り捨てた。

「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああ!!」

断末魔を叫びながら、闇呪は塵のように消え去っていく。

「さて、これでもう大丈夫だろう。」
「そうですね。…………お爺様もこれで成仏するといいんですけど。」

「おじいちゃん…………。」

「ばあさんのこと、頼んだぞ。」
「……………うん。」


「体に気を付けてな。お前はよくなるから。ばあさんに会ってこい。」

「…………うん!」

そういうと綾音の祖父は光に包まれ、消えて行った。
「じゃあ、俺達もお暇するね。」
「ごめんね、急に夢の世界にやってきて。」
「………お姉ちゃん達、いったい何者なの?」
「うふふ、それは内緒。じゃあ、また朝になったら話をしましょ。」
「そうだね。」

そういうと芳樹と満月は綾音の夢の世界を後にした。



続く。

ACT17-(4)

「…………闇呪に蝕まれているのか。」
「みたいですね。」
綾音の話を聞いた芳樹と満月の2人は病室に戻ると、ため息をついた。
「夢の世界に入って、現物を見てみないと何とも言えないけどね。」
「そうですねぇ。」
「とにかく、早いうちに手を打った方がいいな。
どうせ、2週間やることもないんだし。」
「はい。」
「満月ちゃん、準備はいいかな?」
「もちろんです、芳樹さん。」


夜になり、消灯時間となった病院で満月は魔法陣を展開した。

「………………さて、それじゃあ出発するとしますか。」
「ボランティア活動はあまり好きじゃないんだけどなぁ、そうも言ってられないね。」
「芳樹さん。奉仕活動はちゃんと参加しないとダメですよ。」
「満月ちゃんがやるなら、俺もやるんだけどねぇ。」

そう言って、2人は綾音の夢の世界へ向かった。


「……………おじいちゃん、大丈夫?」
夢の中で綾音は闇呪に侵食されている祖父を心配していた。

「………ばあさんは息災か?無事にやっていけれているか?」

「それ、この間も聞いたよ。でも私、退院できないからおばあちゃんの様子見に行けないって!」

綾音はそういうが、祖父の体を蝕む闇呪はさらに食い込んでいく。

「…………おじいちゃん!」

「綾音ちゃん、待って!それに触っちゃ駄目!」

苦しそうにうめく祖父に近づこうとした時、綾音を制止する声が聞こえた。


「………満月お姉ちゃん!?それに芳樹お兄ちゃんも!」

芳樹は綾音の祖父に近づくと、庭師の鋏を召喚した。
そして、祖父から闇呪を斬り離した。

「もう大丈夫よ、綾音ちゃん。これでお爺様はもう苦しまないわ。」
「…………どういうこと?」

綾音の祖父から切り離された闇呪は、人間大のサイズに変化した。

「…………さて、ここからが勝負だ。大人しく斬られると良い。」




続く。

ACT1-(2)

「というわけで、綿貫芳樹です。よろしくね、咲良ちゃん。」

「あわわ………高学歴、高収入、高身長の3Kが揃ったイケメンが目の前に………。」
「ちょっとちょっと、私の婚約者だからね?」

「あ、うん。満月ちゃんの婚約者だもんね……………。」

「で、相手の正体についてはわかったのかい?」
「大蛇でしょうね。」
「……………え、蛇?蛇の妖怪?」

「何か、変わったことはなかった?例えば何処かへ行って、社みたいなのを見たとか。」

「………そういえば、この間の遠足で社みたいなのを見たんだけど………。
何もお供えせずに、手を合わせたよ。」

「………その時に魅入られたか。」
「な、何で!?私、美味しくないよ!?」

「いや、そう言う問題じゃないんだ。妖怪にとって霊力の高い人間は嗜好の餌なんだ。」
「………私が嗜好の餌。く、食われたりしないんですよね………?」


「そうならないためにも満月ちゃんが動くんだよ。」

「そうそう。大船に乗った気分で。」

「………はぁ…………。」

「さて、近いうちに会おうっていうぐらいならこっちから仕掛けるとしますか。」
「そうだね。その社に行こうか、咲良ちゃん。」
「え、あ、はい!」




続く。

ACT1-(1)

日本、桜庭市。

「…………………お前が小鳥遊咲良かえ?」
「………え?誰?」
「お前はほんに美味しそうじゃのう。近いうちにまた会おうぞ。」
「…………どういうこと?美味しそうって……………。」




「……………どうも咲良ちゃんは妖怪に魅入られたらしいなぁ。
今の話を聞く限りだと。」

小鳥遊家で女子校に通う16歳の少女、咲良は伯父に夢で見た事を話した。

「妖怪って架空の生き物か既存の生き物の見間違いかと思っていたんですけど。」
「いやいや、これがいるんだよ。現実に。
美味しそうって言われたんだろう?」
「…………私、食われちゃうんですか?伯父さん。」

「そうしないためにも、協力をして貰わないとなぁ。」
「協力?」

「そ。知り合いに妖怪がいるんだ。」

「…………というわけで初めまして。姫宮満月です。」

「あ、どうも。小鳥遊咲良です。…………えぇっと、満月ちゃんって呼んでも?」

「あ、いいよ。同い年だし。咲良ちゃんって呼ぶから。」
「………………私、美味しそうに見えるかな?」
「うーん。まぁ、妖怪の種族や個体差にもよるけどね。
咲良ちゃん、夢に出てきた妖怪に美味しそうって言われたんだよね?」
「う、うん…………。」


「一般の人に比べたら、餌になりやすい対象なんだろうね。」
「な、なりやすい対象!?」
「私は狐の妖怪で、精気を奪うんだけどね。
絶倫の人と相性が良いの。」
「…………満月ちゃん、狐の妖怪なの?」
「そ。九尾の狐。まぁ、それは置いといて。でも今まで妖怪に目をつけられたことは?」
「な、ないよ!?16歳になってから急にこんなことに……………。」


「まぁだよね。……………力仕事は芳樹さんに任せてもらうか。」
「芳樹さんって………人気絶頂中の俳優さんの?」
「あ、幼馴染で婚約者なの。」

「………うっそぉ!?ファンの皆は知っているの!?」
「うん、知っているよ。」

「うわぁ……………………。」

「………何に対してのうわぁ、かは聞いておかないでおくね。
さて、まずは何の妖怪かを調べないといけないね。」
「……………何の妖怪かを調べる必要があるの?」
「そりゃあね。伝承とかが残っているなら退治方法もあるだろうし。」
「あ、なるほど…………。」


「夢に出てきたってことはそれなりの力を持っているってことになるだろうしね。
覚悟しておいた方がいいかも。」

「か、覚悟か……………。」




続く。
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