「…………綾音ちゃんは先天性心疾患を持っているんです。
治療をすれば治るんですけど、なかなか思うように効果が出なくて。
それで、家に帰りたいと駄々をこねて。」

「そうだったんですか。」

「でも新しい薬とかも出ているんでしょう?」
「ええ。手術も検討しているんですけど、何分まだ幼いですから……………。」

「怖いって言う気持ちが出ているんですね。」

「…………別に余命を告知されているわけではないので、根気よく治療して欲しいんですけど…………。」

芳樹と看護師が話をしているのをよそに満月は綾音と話をしていた。


「そっか。綾音ちゃんにはお兄さんがいるのね。」
「うん。私の病気を治すために医者になるんだって言っているんだよ。」

「いいお兄さんじゃない。…………シスコンなんだね。」
「シスコン?確かに言われてみればそうかも。
でもそれじゃあ私だってブラコンになっちゃうよ。」
「あ、それもそうかもね。
私も5人のお兄様がいるから。」
「満月お姉ちゃん、お兄ちゃんが5人もいるの?」

「そうだよ。1番上が12歳も離れているから。」


「凄いなぁー………………でも芳樹お兄ちゃんと結婚するんでしょ?
芳樹お兄ちゃんのこと、ロリコンだとか言われない?」

「あはは、小さい頃はしょっちゅう言われていたよ。
歳に似合う女性を見つけろだの、何だの言われてね。
でも、お兄様達も芳樹さんも私のこと心配してくれているからね。」

「そうなの?」

「うん。私、虚弱体質だから。小さい頃は入退院とか繰り返していたんだよ。
今はめっきり減ったけど、季節の変わり目でも風邪を引いちゃったりとかして。」

「……………そうなんだ。病弱だったんだね、満月お姉ちゃん。」
「うん。……………ね、綾音ちゃんはどうして家に帰りたいの?」

「…………もうすぐおばあちゃんの誕生日なの。
でも私、ずっと入院しているからなかなか退院許可がおりなくて……………。」

「…………おばあ様、余命僅かだとか言われているの?」
「全然、そんなことないよ!大きな病気もしたことないし!」

「じゃあ、何でそんなに焦っているの?私から見たら焦っているようにしか見えないんだけど。」


「それは…………………。」

「何か言えないことでもあるのかな?」

満月の言葉に綾音はため息をついた。


「…………こんなこと、言っても信じられないかもしれないけれど。
おじいちゃんがね、夢の中に出てくるんだ。」


「…………おじい様が?」
「うん。戦争に行って死んだおじいちゃんが。……………おばあちゃんの顔がはっきりと出てくるから、
多分、おばあちゃんのことを心配しているんだと思うの。
ずっと、おばあちゃんは元気か?とか息災か?とか。
でも私、入院しているからおばあちゃんの様子わからなくて……………。」

「…………そっか。死んだおじい様がおばあ様の安否確認をしたくて綾音ちゃんに
コンタクトを取っているのね。」

「…………うん。でもおじいちゃん、最近苦しそう。」

「………苦しそう?」

「………何だかよくわからないものに体を拘束されているのかな……………。
黒い植物みたいなのに、浸食されている感じがするの。」



続く。