深愛達が訪れたのは、姫百合総合病院であった。
「ああっと、お姫様。こんにちは。」
「……………だから、そのお姫様って言うの、やめてくれない?」
「いやはや、これは癖だってことわかってくださいよ。」
「…………あ、紹介するね。蒼氷智久。これでも腕の立つ医師で、
カロリー抑制剤を開発した研究者なの。」
「初めまして、薬師寺涼子です。」
「有栖川澪です。」
「…………ああ、あの有栖川さんの娘さん?こんなところでお会いできるなんて奇遇ですね。
いやはや、御父上に関しては残念でしたね。」
「………まあ、自業自得だから仕方がないけど。」


「………ねぇ、あれって有栖川澪じゃない?」
「何かすごいイケメン医師と話しているんだけど、知り合い?」


ヒソヒソと話をする通院者に智久は眉をひそめた。

「んじゃまあ、いつもの薬を処方するんでこちらに。」
「はーい。」


智久に案内されて、深愛達が到着したのは精神科だった。

「………精神科?」
「……まあ、何ていうかね。怪獣に変身すると自分が自分でいられなくなるとかそういった類の考えが
たまに出てくるからさ。」
「………それはそうでしょ。普通の人間が怪獣に変身できるなんてそりゃないんだから。」
「まあ、こういう隠れ蓑がないとやっていけないんでね。
カロリー抑制剤もM計画に参加していた薬剤師が調合していますから。」
「はぁ………。」
「ちなみにお姫様、今月の出撃はそんなにないんですね?」
「今のところはね。」
「じゃあ、今回は1ヶ月分だしておきますんで。」
「わかった。」
「…………1か月分で足りるの?」
「出撃した回数に比例して、処方されるからね。何処で変身するかわからないし。」

「………面倒ね。深愛に任せきりにしないで、少しは武力を向上させたらいいのに。」
「法律が色々と五月蠅いですからね、限度ってものがありますし?」
「…………その限度をどうにかしようとして、法スレスレの違法研究をしたのがM計画でしょ。
国からの命令とはいえ、私、許していないんだからね。深愛は被害者だわ、間違いなく。」


「………わぁお、澪さん結構怒っていらっしゃいますね。」
「当然よ。成功例である被検体を生み出すためにどれぐらいの受精卵が無駄になったと思って?」
「…………知りたくなかった、そんな事実。」

「……まあ、今はそのほとんどが凍結されて何処かに保管されているって言うけど。」
「澪さん、将来の夢とかでもあるんですか?」
「当然、怪獣の遺伝子を人間の受精卵から切り離すことを夢にしているの。
せめて生まれてくる子供達が、普通の人間として過ごせるようにね。」
「じゃあ、深愛の遺伝子ももしかして切り離せるの?」
「それは無理だわ。ここまで育っていると、切り離すのは………。」
「………あー、やっぱり?」

「気持ちだけでもありがたく受け取っておくよ、澪。」


続く。