演奏が終わり、コンサートは無事に終了した。
観客から拍手を送られ、芳樹と満月は一礼をした。
控室に戻った芳樹と満月はやれやれとした表情で衣裳から私服に着替えた。
「はぁ………緊張したぁ………。」
鏡面台に向かい、メイクを落とす満月に芳樹はそうだね、と呟いた。
「でもこれで後は真剣乱舞祭まで落ち着くだろうから、のんびりとできるね。」
「そうですねぇ。」
「芳樹にーに、満月ねーね、お疲れ様!」
「2人ともお疲れ様!」
「幸仁に幸子、また来てくれたのか。ありがとう。」
「にひひ………どうせ2人のことだから、イチャイチャしているんだろうなぁって
お父様が言っていたよ。」
「イチャつくのは家に帰ってからだよ。」
「…………まったく智仁様は………。」
「で、その肝心の智仁は?」
「お母様と一緒に散歩しているよ!」
「鬼丸と白山がついている!」
「………ならいいんだけど。」
「………この近辺を護衛2人だけ連れて歩くなんて良い度胸しているというか………。」
「でも2人とも強いよ?」
「うん、強い!」
「………大丈夫ですよ、守り刀にケンカを売ろうとする方はいらっしゃいませんから。」
「相当物好きな方だと思いますけどね。」
前田と平野の言葉に2人はそれもそうか、と頷いた。
「……………あ、お嬢様、若旦那様!」
「乱、一期。外の警備お疲れ様!」
「2人とも、幸仁様と幸子様が来るまでイチャイチャしていたの?」
「こら乱、そんなことを言わない。」
「うーん、イチャイチャしていたかって言われるとイチャイチャしていないんだなぁ、これが。」
「はっはっは。まあ家に帰ったら、好きなだけイチャつくさ。」
続く。
「あーあ、僕も若旦那様とお嬢様の演奏聴きたかったなぁ。」
「我がままを言ってはいけないよ、乱。
どうせこの後、お嬢様が機嫌を良くしてピアノを弾いてくれるのだから。」
「それはそうだけどさぁ………観客が粟田口だけって言うのも悲しくない?」
「それは確かにそうだが………まあ、何というか。
とりあえず今は自分の仕事を全うしないとね。」
桜庭市営文化ホールの正面玄関で一期一振と乱藤四郎は他愛もない話をしていた。
「……………何ていうかお嬢様ももう高校生なんだよねぇ。」
「何を今更。来年は高校2年生になるんだ。」
「そうだけどさぁ…………。
若旦那様、お嬢様が高校を卒業するまではキス以上のことすると思う?」
「しないと思うさ。
色々と法律が五月蠅いからね。」
「むぅ。絶対手ぇ出しそう。」
「こらこら乱。幾ら、責任取って嫁にするとは言っても、婚姻前にみだらな行為をしたら
綾人様達が黙っていないだろう?」
「若旦那様も男だし、獣だからねー。手ぇ出しそうだけど。」
「そうなったら、お嬢様に大嫌いと言われそうだけど。」
「えー………、お嬢様。若旦那様になら何されても許してくれそう。」
「………どういう根拠でそう言っているのかな?」
「いたたた、いち姉ぇ、手で頭を掴むのはなし!」
「それに、お嬢様に何かあったのなら、若旦那様の息子を斬るつもりでいるからね。」
「……うわ、さすがいち姉ぇ。」
「私はお嬢様をお守りする守り刀だからね。
若旦那様と言えど、お嬢様の命令第一に考えているから。」
「…………いち姉ぇ、お嬢様が生まれた時に生涯貴女しか愛さないという意味も込めて誕生祝として
贈られたもんね。」
「………ああ。お嬢様が生まれた時のこと、今でも覚えているよ。
それはもう見事な望月だったから。」
「……だから、奥様は満月って名前をつけたんだよね。なんだかロマンティック!」
「………はしゃぐのもいいが、仕事に専念するように。」
「はーい。」
続く。
そして開演時刻となり、観客席は若い女性を中心に満席となった。
「…………うわぁ、これだけの人がいるんですねぇ………。」
「………当日券もあっという間に完売になりましたからね。」
「………え、嘘!?」
物吉の言葉に満月は信じられない、という表情をした。
「………それだけ2人が人気あるということですよ。」
「そうだなぁ。これは喜ばしいことだ。」
物吉と三日月に言われて、芳樹はあはは、と苦笑する。
「………さて、じゃあ。満月ちゃん。行くとしますか。」
「…………はい!」
芳樹にエスコートされ、満月は舞台袖から舞台に上がった。
拍手が鳴り響き、満月は丸椅子に座る。
「……………ふぅ。」
名作ストラティバリウスが一品、
ファルチェ・ディ・ルーナを肩にのせ、芳樹は弦を手にした。
ピアノとヴァイオリンの旋律が静まり返った会場に響き渡る。
まずはクラシックから。
そして次にジャズ、最後にJPOPの順番で2人は演奏を始める。
2人の奏でるメロディーに観客達はうっとりとしていた。
「………………ふむ、首尾は上々といったところか。」
「………そうですねぇ。」
舞台袖から物吉と三日月は静かに2人を見守っていた。
続く。