私立姫百合大学付属高等学校。
深愛は三等海曹に送られ、校庭に入った。
校庭には深愛と同い年の新入生が家族と共に、クラス分けの看板を見ている。
「………………。」
深愛はその中に混ざると、自分の名前を探した。
「…………A組か。」
「…………ねぇ、あれって海堂海上幕僚長の娘さんでしょ?」
「あの歳で一佐とかって信じられないな………。」
「………親のすねでもかじったとか?」
ヒソヒソ話をする新入生の親御をよそに、深愛は正門玄関に入った。
「新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。」
体育館では新入生の入学を祝い、校長が話をした。
新入生達は話の長さにくたびれ、在校生達は諦めた表情で話を聞いていた。
教室に戻るなり、クラスメイトが和気藹々と話をする中、深愛は1人、帰宅の支度をしていた。
スマホを見ると、LINEが来ていた。
「……………はぁ。娘の入学式に来ないくせにお祝いの言葉はこれだけか。」
不器用な父親のLINEを既読しながらも、スルーをした深愛に1人の女子生徒が声をかけた。
「ねえ、貴女は親御さん来なかったの?」
「………仕事があるからね。来ないよ。うちは父子家庭だから。」
「………あ、そうだったの。ゴメンね、変なこと聞いちゃって。」
「いいよ、別に。済んだことだから。」
「………あ、名前言うの忘れてた。私、薬師寺涼子。」
そういうと涼子は深愛に手を伸ばした。
「……何これ。」
「何って……握手しようかと思ったんだけど、もしかして嫌いだった?」
「ううん、そんなことはないよ。……私、海堂深愛。」
「へぇ、みあって言うんだ。素敵な名前!なんて読むかわからなくて、
皆してどう読むんだろうねって、言っていたんだ。」
ねぇ?と涼子がクラスメイトに声をかけると、皆して一斉に頷いた。
「…………死んだ母さんがつけてくれた名前だからね。深い愛をもって人に接せるようにって。」
「素敵な由来ね。」
「ありがとう。今度墓参りする時に伝えるよ。」
「深愛って呼んでもいい?」
「それは良いけど…………なら、私も涼子って呼べばいいのかな。」
「うん、喜んで!………ところで深愛のお父さんって海上幕僚長なんだって?」
「うん。そうだよ。」
「深愛、私達と何ら変わりないのに一佐って呼ばれているから、どうしてかなぁと思って。
普通は年齢とか経験とかを考慮されるのに、何でだろうって。」
「………まあ、色々と事情があってね。
親のすねかじりをしたわけじゃないんだけど。」
「そうなんだ…………。でも色々言われるのって嫌じゃない?」
「慣れたからね。」
「そっか。」
「うん。……じゃあ、私はこれで。この後、仕事があるから。」
「わかった。じゃあ、またね。」
「話しかけてくれてありがと。」
「いえいえ、どういたしまして!」
涼子に見送られて、深愛は教室を後にした。
「………涼子って凄いね。深愛相手にあんなに喋れるなんて。」
「普通はあの年齢で一佐ってホントにありえないから。」
「でも色々と事情があって、一佐の地位に収まったんじゃないの?
今は話してくれなさそうだけど、いつかは話してくれるって思っているから。」
続く。