それは美穂が綾人と付き合い始めてから半年が経過した頃。
美穂の大学時代の友人達は居酒屋で飲んでいた。
「それにしても最近、美穂付き合い悪いわよね。」
「そうそう、独身女子の会にもめっきり参加しなくなったし。」
「彼氏でもできたかな?」
「まっさか、あの堅物に限って………。」
「でもさ、姫宮綾人さんのファンになったって言っていなかった?」
「ああ、おじいちゃんの葬儀があって見に行けなかった舞台の話ね………。
グッズをわんさか買ったって言っていたわー………。あー、見に行きたかった。
冠婚葬祭は仕方がないけどさー………タイミングってもんがあるでしょ!」
「そうよね、男との出会いもタイミングってもんがあるわよね!」
「ふっ、だから私達には良い出会いがないのよ…………。」
「それを言っちゃおしまいじゃない。」
和気藹々と話をしていると、友人の1人があ、と呟いた。
「ねぇ、あれって美穂じゃない?」
「え?」
「嘘、あ、ホントだ!」
「ね、隣にいるのって姫宮綾人じゃない!?」
「うっそぉ、何でぇ!?」
「………………。」
「どうかしたのか?」
「いえ、何ていうか友人達がこの近辺で飲むって話をしていたから、
目撃されてしまっているんじゃないかと思って。
まあ、でも隠す必要はないからいいのだけど。
気にしなくていいわ。」
「…………そうか。すまないな、なかなか時間が取れなくて。」
「いいの。こうして貴方と一緒の時間を過ごすだけでも嬉しいんだから。」
高級レストランに入る2人の姿を、友人達は呆然と見ていた。
「…………う、嘘でしょーーーーーーーーー!?」
「あの美穂が玉の輿に乗っちゃったーーーー!?」
「ありえなーーーーい!」
翌日になり、美穂は大学で友人達に問い詰められることになったのであった。
続く。
姫宮美穂。
姫宮家次期頭首にして姫宮6人兄妹の長兄、姫宮綾人の妻である。
4人の子供に恵まれ、順調な人生を送っていた。
「はい、姉ちゃん。煮物のおすそ分け。」
「悪いわね、颯太。」
「わあ、颯太おじちゃんだー!」
「遊んで遊んでー!」
「彼女できないのー?」
「だー!」
「…………ああ、もう未だに彼女はいないけど姪っ子達が可愛すぎる!」
キャッキャッと美花達に囲まれる颯太を見て綾人はフッ、と笑った。
「義弟でもこうも差が出るとはなぁ……。」
「歳の近い義弟は嫌いなの?」
「実感が沸かんし、たまに義兄さんと言われてみろ。寒いぞ。
それに比べて颯太はまだ良いじゃないか。」
「良かったわね、颯太。褒められているわよ。」
「………あの、姪っ子と遊んでいる時にそう言われると……………。」
「旦那からの褒め言葉として受け取っておきなさい、愚弟。」
「こんにちは、美穂お義姉様。綾人お兄様。」
「やぁ、颯太君。来ていたのかい。」
「あ、満月ちゃんに芳樹さん、お邪魔してます。」
「私のお母さんから煮物を大量に頂いたの。食べちゃって。」
「美穂さんとこのお母さんが作る煮物は絶品だからなあ。」
「はい。」
「ばあばの料理は美味しいもんねー!」
「ねー!」
「うん!」
「だー!」
美花、美鳥、美風、美月の4人に綾人はよしよしと頭を撫でた。
「でもそろそろ男の子の1人や2人は欲しいわねぇ………。」
「あ、姉ちゃんもやっぱりそう思ってたのか?
父ちゃんもそろそろ孫息子が欲しいな………って言っていたぞ。」
「……綾人似の子供ができるのか…………。」
「こら待て、誰もまだ作るとは言っていないぞ。」
「あら嫌だ、これから作るってことでいいのかしら?」
「美穂!」
「うふふ、からかい癖があっていいわねー。」
続く。