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狭間。



住み慣れた其処には何も無く、

どうやら、生温く何時冷めるのかも予想出来ぬ、

短くも充実した”幸福”に、感覚が麻痺してしまったようだ。

幸せとは何とも恐ろしく、

確実に多く見舞われるであろう、”不運”よりも、

その力は絶大で、

一度味を占めれば、更なる甘美な幸福感を得たい衝動に駆られてしまう。



愛しき人。

穏やかな生活。

優しい貴方。

微笑む私。




押し寄せる、不安。



余りにも自然に貴方と周囲に溶け込んで、

逆に其れが私を臆病にさせていく。

幸せは本当に脆く、壊れて消滅し易く、

其れを感覚で知っている私には、

猛烈な恐怖と、時の流れへの憎悪が膨れ上がり、

悶々とした感情が襲い掛かって来る。




尽きない笑い声。

溢れる微笑み。

引きつる口元。



零れる、泪。



理性も、感情も、感覚も、総て。

不要な程この身に漲って、

私という一人の人間を形成していくのだ。

盲目。




容赦無く零れて行く、手応えの無い粒子の様な、

想い人の深層心理に、堕ちて、

"無関心"という、

激しい脅威を奮って、

貴方との壁を形成していく。

憐れですか。

脆さをひけらかし過ぎでしょうか。

愛しさの許容範囲を越えると、

自身を護ろうと躍起になる。



貴方は、私の自制心をいとも簡単に破壊する。

美化。




浅薄な自意識の、

張り巡らされた神経に掛かる、干渉。

小さな戯れ言に揺るがされ、

大きな激情に冒されて、

失われ逝く、

危う気に保たれた、

精神の脆弱さを加速させていくばかり。



自分が自分で無くなる日は、きっとそう遠くはないだろう。



潔く、消滅してしまえば、

美しい思い出のまま、

其処に息付いていられるというのに。

さよなら。



隔絶された、

孤独の部屋。

そこには、

建て前も無く、

遠慮も無く、

私を脅かす葛藤も、無く、

確かな安堵感がこの身に染み込み、

安穏な平和に酔いしれる。



鈍る感覚が、

薄れ行く情愛が、

私から不安と不満を削ぎ落として、

微かな笑みを含んだ口元に、

そっと指を触れてみせた。



蘇るは、

過去の繁栄と、

貴方への愛しさ。



最後に、貴方の残像を見て絶える。

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