サイトにupした、「中国からの飼育員」のおまけ。
本編の前半にスクアーロ視点で見た幻騎士の様子を、幻騎士視点で書いてます。
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朝こっち来るから、準備しとけ。
そう言われたのが昨日。朝の九時頃にホテルで身支度を整えて、後は奴が来れば出発出来る段階だった。
だったが、訪ねてきた奴は全身ずぶ濡れだった。本人は窓から捨てられた水が直撃したと言っていたが、信用してもいいものか悩ましい。
そのまま放っておくのもどうかと思ったので、奴を急遽風呂に入れたが、シャワーのノズルが壊れたとか言って直ぐに出てきた。その右手には確かにノズルだけが握られていた。
素っ裸だった奴にバスタオルを渡してやりながら、フロントに連絡を入れた。その時に奴も何処かに電話をしたようで、数分後にはこの部屋に眼鏡を掛けた黒スーツの男が入って来た。
それから奴は特に大きなミスを一つもせずに、無事ホテルをチェックアウト出来た。
後で聞いた話だが、奴は部下が誰もいないと有り得ない失敗をする体質らしい。奴に着替えの服を貸す前に部下が来てくれて心底安堵した。
もしかしたら引きちぎられていたかもしれない。
例の託児所までは黒塗りの車で向かった。
白蘭さまから頂いたマシュマロ型のストラップを奴が興味深そうに見てきたが、決して触らせなかった。
着いた所は平凡な建物だった。
入れと促されたが、ここまで車に乗せて来てくれた奴の部下が車を止めてくるとかで、離れてしまった。
一気に不安が押し寄せ、指先が冷たくなった。
だが、こちらが開けるより先に開いたドアの向こうに、三つ編みの少女とタレ目の青年が居た。この二人は恐らく奴の部下だろう。
眼鏡の男に「ボス」と呼ばれていたから、奴はきっとこの施設の責任者だ。
その考えに至った瞬間、心が安らぐのを感じた。
しかしそれが油断を誘った。
靴を脱ぐために屈んだ時、後ろで鈍くて不吉な音がした。
振り返る暇もなく、腰に来た衝撃で体勢を崩してしまった。
敷居の凹凸に躓いた奴に思いきり突き飛ばされたようだ。
そう推察した時、顔に何やら柔らかな感触の物が当たった。人肌と言うよりは、人工物のようなものらしい。
「リボーンのために作ったのに!私のケーキに何てことしてくれたの!!」
ドスの効いた女の声がしたかと思ったら、突如腹部に鋭い痛みが走った。体勢から考えるに蹴られたらしかった。
反動で起き上がる体。咄嗟に何が起こっているのか周囲を確認しようとするが、開けた目が何故か染みて直ぐに閉じてしまった。
開けた瞬間視界が紫だったのは気のせいだろうか。
顔の肌が熱く、何かの刺激臭がする。怪しげな物体(先程の発言を聞くに、ケーキのようだ)の一部に鼻と口を塞がれて、呼吸が困難になってきた。
真後ろには先程大失敗の結果をぶつけてくれた男がいるので、右に体を寄せて体勢を整えようと試みるが、誰かにぶつかった。
目も見えない状態では耳が頼りなのだが、
「あら、この子私の好みだわ」
低い声を無理矢理高くしたような男の声が聞こえて、全身が総毛立った。
何故かそのまま身体を拘束されてキツく圧迫された。この感触は抱き締められているようだ。
吐き気がする。
それが何からくる吐き気なのかは分からなかったが、とにかく猛烈な吐き気に見舞われた。
拘束する力はかなり強く、関節や何処かの骨から変な音が上がった。
そこまでは覚えているのだが、酸欠か何かで気絶してしまい、自分が今どんな状態にいるかが分からないが。
腹に乗る何かの重みに意識が浮上し、気絶する前に顔面を覆っていた不快感の塊が無くなっているのに気付いた。
今は、目を開けた瞬間に見えた、女のように髪が長く目付きの悪い男に、自分の眉の悪口を聞いたところだ。
今日はなんて最悪な日なんだ。
end
幻騎士の書きやすさがすごい。
スクアーロ並に書きやすいです。