結果的に生き残りゲーム・第2ウェーブはクリアした。晴斗と御堂が制限時間ギリギリで怪人から逃げ切れたからだ。
晴斗は残り時間3分で無の存在を味方につけて怪人を撃破し、一気にポイント獲得。御堂も荒々しいやり方でボーナスアイテムのマシンガンを入手し、ポイント荒稼ぎ。



運営提供の昭和レトロな喫茶店のような休憩所。


鼎は運営スタッフのナツメとシバにあることを聞いた。

「無の存在について聞きたい。あいつらは一体なんなんだ?」
「…気になるのですか」

ナツメは鼎があまりにも深刻そうに聞くため、最初は戸惑いを見せたのだが。


「…何か心当たりでも?」
ナツメは慎重に聞く。
「第2ウェーブで私が味方にした無の存在、顔は見えないはずなのに…親近感があった。
あいつは何者なんだ?無の存在は全て同じ個体ではないんだろ?」


「違います。無の存在は我々と同じ人間です。時空の狭間に取り残された、記憶を無くした人間…と言った方がいいでしょうか」
「あの白づくめには意味あるのかよ」

御堂が悪態ついた。


ナツメはさらに説明。

「全てを無くしてしまったがゆえに『白』なのです。何者にも染まらない、染められない、時空を漂う不思議な存在と成り果ててしまった」
「じゃあ無の存在には名前があるのか」


「紀柳院さん、彼らは思い出せないのです。自らの名前を。このゲームは彼ら、無の存在を救済する意味合いもあります。
この異界ではなく、然るべきところへ還さなければなりませんが…記憶が無い以上、この世界を漂っています。今回のゲームでは3体いますが、プレイヤーに心当たりがあるのかと思いゲームマスターはあなた方を呼んだようなのです」


無の存在3体の救済!?
記憶が無い、無くした人間だと!?


鼎はそのうちの1体になぜか、ものすごい親近感があった。
無の存在は白い忍者装束風の和装に白い仮面姿という、異質な出で立ちだ。完全に顔が隠れているため、わからない。


鼎は晴斗にこんなことを聞いていた。

「晴斗、私は一人っ子だったっけ」
「鼎さん!?何言ってんだよ。いや…その話の場合だと、悠真姉ちゃんと呼んだほうがいいのかな…」


晴斗、めちゃくちゃ戸惑う。晴斗はものすごく久しぶりに鼎の本名・悠真と呼んだ。


「鼎さん…いや、この話の場合は悠真姉ちゃん呼びにするけど、悠真姉ちゃんには弟がいたんじゃなかったの?
でも俺、1度も会ったことないし…。鼎さん、記憶飛んでるんじゃ…」
「思い出せないんだよ。いくらやってもどうあがいても。
本当にそいつが弟かも定かじゃないし、都筑家に弟がいた記憶がないんだ」


なんかわけわからなくなってきた…。鼎さんはあの事件がきっかけで記憶に封印したのかもしれない。
鼎さんが親近感持った無の存在が鼎さんに関係してるのならば、なんとなく納得いくが。


「鼎、第3ウェーブでその無の存在をなにがなんでも味方にしろ。
お前はそいつから聞き出せ」
御堂がめんどくさそうに言う。鼎はかなり迷いを見せる。


「無の存在は話せないんだ。簡単な言葉はわかるみたいだが、言葉は発することが出来ないようだ。
無の存在は意思がないように感じる…。ずっと時空の狭間を漂っているせいか、意思すらも無くしてしまったのかもしれない」
「マジかよ…。鼎の、いや…都筑家の関係者説が濃厚なら、そいつを拉致るのにな」

「せめて意志疎通が出来ればいいのだが…なんとかならないのか?ナツメとシバ」
「無の存在に関しては私達もノーマークでした。プレイヤーの関係者ならゲームマスターは承諾するでしょうから…」


御堂は全員にこんなことを言った。
「第3ウェーブ、鼎は無の存在を味方につけることだけを考えろ。第3ウェーブはフィールドが広いから、なんとかなるはずだ。
筆談でも何でもいいから意志疎通を試みてみろ。…もし、鼎の関係者…プレイヤーの関係者ならそいつを拉致る。そんで元の世界へ戻る!」
「たいちょー、それは強引だよ〜。きりゅさんでもさすがに無理あるはずっすよ」

「…やってみないとわからないだろうが。第3ウェーブは制限時間が長い。それを利用するしかない」
「厄介なのは第3ウェーブに登場する、ラスボス様らしいけどな〜」

御堂は相変わらずだるそう。


「ラスボスは私と桐谷さんに任せてよ。鞭使いの怪人相手にポイント荒稼ぎしたそこの2人は紀柳院さんをカバーしてあげるのよ。
時任さんや渋谷さんでもいいか」
「あたし達をおまけ扱いしないでよ〜。朝倉さん〜」

「はいはい、わかったわよ」


なんだこの流れ。



第3ウェーブ、鼎は無の存在3体を無謀にも味方につける作戦を取るが、ゲームを有利に進める目的じゃない。
無の存在3体の正体が知りたかった。記憶を無くした人間ならば、何かしら手がかりがあるはずだから。



異界某所・ゲームマスターの館。


「感づかれたか…。あのフィールドにいる無の存在の正体、紀柳院司令補佐は勘が良すぎですよ。
まさか番狂わせがいたとはね…。さすがだな、司令補佐は」


ゲームマスターの名はタデシナ。

「無の存在はこの異界には必要な存在なのにな。抑止力にもなっている。
意のままに操れる存在は無の存在くらいだからね〜。彼らは『空っぽ』なんだからさ。記憶もない」


無の存在の記憶が戻ったら、異界からしたら少し面倒になるんだが。



「第3ウェーブって、フィールド広がるんすね〜」
いちかはスマホでゲームマップを見ている。ナツメは答えた。

「最終戦なのでゲームフィールドは拡大していますよ。それと無限牢も強化されてます。難易度はかなり上がっているかと…」
「フィールドにいる無の存在は3体には代わりないんだな?」

「3体に代わりありません。見て下さい、これが現在の無の存在3体です」
ナツメはフィールド内の映像を見せた。無の存在はそれぞれあてもなくふらふらしている。


鼎はその中の1体がやはり気になったらしい。パッと見同じように見える無の存在だが、よく見ると背格好や歩き方が異なる。
仮面姿ということもあり、なにがしたいのかさっぱりわからない。

無の存在のうち1体は仮面慣れしてないらしく、かなりふらふらしているように見えた。


「ナツメ、この仮面慣れしてない個体は比較的新しいのか?ゲーム前だとやたらと物や壁にぶつかりまくっているが…」
「…たぶん。その個体は不慣れなのかもしれません。他の2体はそうでもないのですが」

「無の存在、ちょっと可哀想…」
いちかは心配していた。異界ではずっとあの姿だと聞いたからだ。


「ゲームをクリアすればあの無の存在も解放されるんだろ!?」
御堂は運営2人に聞いた。

「クリアしないとどちらにせよ、解放されません」
「わかった。鼎はやっぱり無の存在を味方につけておけ。気になった1体だけでいいからな」



しかし、クリアしたら無の存在まで解放されるとか初耳だぞ!?
つまり、無の存在3体はゲームをクリアすれば記憶が戻るってことらしい?

鼎が親近感持った個体が都筑家に関係してるかは、蓋を開けてみないとわからないが。



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