裂鬼戦から数時間後。本部・救護所。
憐鶴(れんかく)はうなされていた。昔の悪夢を見ていたらしい。
やがて目を覚ます。
「気がついたか?」
鼎の優しい声。救護所には鼎の他にも彩音といちかもいる。
「憐鶴さん、ずっと気を失っていたんだよ。うなされてた」
「憐鶴…元の姿に戻っているが、何が起きてるんだ?」
「…え?」
憐鶴は思わず自分の顔を触る。嘘…戻ってる!?
憐鶴の顔の包帯はない状態。絶鬼ではなく、裂鬼が元に戻る鍵だったなんて。
「…なんか空虚しかないです。急に目的がなくなったような気がして」
憐鶴はかなり戸惑っている。
「絶鬼はまだ倒したわけじゃないだろ。憐鶴…何があったんだ。ずいぶんとうなされていたが」
鼎は心配そう。
「今ならようやく話せます。10年前、仲間を失いました。それからずっと独りで戦ってきました」
「憐鶴が御子柴だった時って、一般人ではなかったのか?」
「微妙なところですが、民間組織の諜報員として活動してました。
絶鬼の襲来で仲間は全員、失いましたが」
「新島は一般人か?」
「彼は一般人です。彼は私が死んだと思っているようですが…」
「憐鶴、今一度協力して欲しい。九十九(つくも)と鷹稜(たかかど)の重要性はわかった。私はどうしたらいい?戦えない身体だが鷹稜には意思があるし、人間化出来る」
「九十九も人間になれるんです。封印を解いてないだけで」
九十九も人間になれるのか!?初めて聞いたぞ。
「九十九の封印…解きましょうか」
憐鶴は立つと、救護所を出てある場所へと向かう。武器が置いてある部屋だ。
鼎達も救護所を出た。
本部・司令室。
「九十九の封印を解く?…てか憐鶴、お前なんか丸くなった?気のせい?元に戻ったせい?」
宇崎は元の姿に戻った憐鶴に驚きを見せる。
「まぁ…そんなところですかねぇ…」
「俺達に協力すんのね。わかったよ」
ゼノクでは憐鶴の意外な行動に、蔦沼は驚きを見せた。
「憐鶴が協力したの、初めてなんじゃないか?
少しずつ心を開いてきたのかな」
「長官、最初から紀柳院と泉を組ませるつもりだったんですか」
西澤が気になることを聞いてきた。
「そりゃあね」
「しかし、変わった経歴だな。民間組織の諜報員から襲撃を機にゼルフェノアのいや…ゼノクの特殊請負人になるなんて」
「民間組織は壊滅しました。あの戦いで」
あの戦い…?鳶旺(えんおう)決戦のことか?
「憐鶴もハードだな…」
「紀柳院さんも壮絶だと聞きました。その仮面の下、大火傷の跡があるなんて…」
「怪人由来のものだ。顔の大火傷の跡は簡単には消えない。
身体の火傷の跡はだいぶ目立たなくなったけどな」
「きりゅさん、憐鶴さん〜」
「なんだ、いちか」
「ここで話してないで休憩所でゆったりしようよ〜。きりやんがハーブティー用意してるよ。お茶菓子もあるって」
桐谷が紅茶ではなくハーブティー?
「憐鶴さんにもう少しリラックスして欲しいからだと思うの。ね、休憩所に行こうよ!」
半ばいちかに連れられて休憩所へ来た2人。そこには桐谷がハーブティーを淹れていた。
「2人とも打ち解けてきたみたいですね。美味しいお茶、いかがですか?休息は大事ですよ」
憐鶴は「なんだこの喫茶店のマスターのような隊員は?」と思っている。桐谷の癒しオーラが凄まじい。
憐鶴はハーブティーを飲んでみた。優しい香りに癒される。
「どう?美味しいでしょう?落ち着いてきましたか」
「…はい」
憐鶴はどこかリラックスしたかのように見える。桐谷は微笑んだ。
束の間の休息といった、和やかな雰囲気。さながらお茶会だ。
鼎がポツリと聞いてきた。
「憐鶴、復讐代行なんてやめればいいのに…なんで続けるんだ」
「断ち切れないんです。負のループから」
「この戦いを区切りにして終わらせないか」
憐鶴は無言のまま、ハーブティーを飲む。彼女はまだ答えが出ないが、絶鬼を倒したい意志が強いのは変わらず。
「憐鶴、九十九の封印は後日解こう。
鷹稜は喜ぶかもしれないな。仲間が出来るのだから」
「九十九の仲間…」
憐鶴は相棒の対怪人用鉈に仲間が出来ることに、少しだけ希望が出てきた。
後日。憐鶴は九十九の封印を解くことにする。数年ぶりに封印解除をするため、彼女は緊張していた。